【文章読解】
次の文章は2014年5月26日付の朝日新聞掲載の社説です。
これを読んで後の問いに答えなさい。

これから先、見込まれる日本の人口減少は、急な坂を転げ落ちるかのようだ。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、人口は約半世紀で3分の2に、1世紀で3分の1に縮む。
 どうすればこの流れを緩められるか。官民三つの有識者会議が相次いで報告をまとめた。
 主張の核心は、どれも同じ。結婚したい、産みたいという希望がかなっていないと指摘し、障害を取り除こうと訴える。
 対策にも共通点が多い。支援策拡充と働き方の改革である。
 三つのうち、民間の「日本創成会議」分科会が、大都市への人口流出が続けば約半数の市区町村は消滅の可能性があると指摘し、耳目を集めた。それを除けば、さほど目新しい指摘や対策があるわけではない。
 当然だろう。元々、やるべきことははっきりしているからだ。焦点は政治と社会に理解を広げ、実現できるかどうかだ。
 何が問題なのか。
 夫が「一家の大黒柱」として家族のぶんまで稼ぎ、主婦が家族の世話をする。そんな家族像を前提に、日本社会に張り巡らされた制度や慣行、人々の意識が、家族の現実にそぐわなくなっている。
 ほかの先進国と比べると、日本の特徴がくっきり浮かぶ。
 子育て支援が薄い。共働きの広がりに、支援策が追いついていない。
 長時間労働が際だつ。「大黒柱」は残業も転勤もいとわず働くのが当たり前だったからだ。その慣行が続いている限り、夫は家事や育児に参画しにくい。男性に負けずに働こうとすれば女性も長時間労働を強いられ、結婚や出産を先送りしがちだ。
 働き方による賃金格差が大きい。かつて非正社員といえば、主婦のパートと学生のアルバイトだった。夫や父親の稼ぎに頼れる前提で賃金を抑えられていた。だが、その賃金水準で働く大人の男性が増えた。女性がなお「大黒柱」を待ち望めば、未婚・晩婚が進まざるをえない。
 ならば             
 そう考える人もいるだろう。だが、難しい。夫の収入だけで暮らせる世帯は減っているし、雇用が不安定なこの時代、「大黒柱」1本に頼るのは危うい。家事の仕方も昔とは違う。環境が変われば家族は変わる。
 変化をとめられないことは、すでに実証済みだ。
 1973年の「福祉元年」宣言もつかの間、同じ年に石油危機に見舞われ、財政の悪化が進んだ。そこに登場したのが「日本型福祉社会」論だ。欧州で、手厚い福祉が勤労意欲を減退させたなどと批判し、自助や家族の支えあいこそ日本の「醇(じゅん)風(ぷう)美(び)俗(ぞく)」だと唱えた。
 自民党政権は、これを論拠に福祉を削り、負担を引き受ける主婦の優遇策を進めた。代表例が、会社員の夫を持つ主婦は、収入が低ければ保険料を払わずに年金を受け取れる制度だ。
 それでも共働きは広がった。収入が低い主婦を優遇する制度は低賃金労働を誘い、賃金格差の一因となった。安倍政権はいま「女性の活躍」を掲げ、こうした「日本型」の施策の見直しにとりくむ。
 世界をみても、イタリアやスペインなど、家族の力に頼る国々で少子化が顕著だと指摘される。家族に負担がかかりすぎると、家族をつくることをためらうのは、当然の帰結だろう。
 これから、家族の負担はもっと重くなる。日本は、多くの現役世代で1人のお年寄りを支えた「胴上げ型社会」から、1人で1人を支える「肩車型社会」へと突き進んでいる。
 現役世代は、税や保険料の重さに耐えられるか。親族の介護のため、仕事や出産を諦める人が増えないか。共倒れを防ぐ工夫が要る。
 第一に、人の力を最大限生かせる仕組みである。
 たとえば、介護や子育てなどの事情に応じて柔軟に働ける制度だ。オランダでは労働者が労働時間の短縮や延長を求める権利を定め、短いからといって待遇に差をつけることを禁じた。就業率も出生率も上昇した。
 第二に、お年寄りを支え続けるためにも、「支える世代を支える」ことである。
 三つの報告は、高齢者に偏る社会保障を見直し、子育て支援などに振り向けよと唱える。貧しいお年寄りへの配慮が前提だが、避けてはいられまい。
 日本創成会議は、口から食べることが難しい場合、胃にチューブを通す胃ろうなど「終末期ケア」のあり方も議論すべき時期だ、と踏み込んだ。人生の最後の時期をどのように過ごすのが幸せなのか、議論を促した。
 生まれる。死ぬ。
 人口減少は私たちに、命をみつめることを求めている。生き方、暮らし方の再検討を迫っている。社会全体での議論なしには、前に進めない。


推論する力を問う

下線部「やるべきこと」とあるが、その具体的内容としてふさわしくないものを、①~⑤のうちから一つ選びなさい。

①労働形態による賃金格差をなくし、非正規雇用の従業員に対しても十分な賃金を支払うこと。
②子育て支援を充実させ、共働き世帯も安心して働けるように保育所の待機児童数の減少を図ること。
③男性も家事や育児に参加しやすくなるように、男性が育児休暇を取りやすい環境をつくること。
④子育てや介護という事情を抱える労働者が不利にならないよう、待遇に柔軟性を持たせること。
⑤負担を引き受ける女性が安心して生活できるように、年金制度や税制面での優遇策を一層進めること。




文脈・論理関係を把握する力を問う

に当てはまる表現として最も適当なものを、①~⑤のうちから一つ選びなさい。

①女性の活躍に期待しよう
②お年寄りの力を借りればよい
③昔の家族を取り戻せ
④「大黒柱」に力を貸すべきだ
⑤賃金水準を底上げせよ




全体内容を把握する力を問う
本文の論の進め方の説明として最も適当なものを、①~⑤のうちから一つ選びなさい。

①最初に、有識者会議による報告から明らかになった問題点を列挙し、次に、過去の日本の社会政策の問題点を指摘したうえで具体的な解決策を提示し、最後に、日本社会の現状とそれを支える心構えについて力説している。
②最初に、日本社会が少子化社会に突入したことを具体的なデータとともに紹介し、次に、それに対する国民一人一人の心構えを説き、最後に、ここに至るまでの政府の無為無策を厳しく糾弾している。
③最初に、有識者会議の報告とともに日本的な雇用慣行の問題点を列挙し、次に、それを克服するための具体的な解決策を提示し、最後に、日本は他の先進諸国の制度や慣行を見習うべきだと結論づけている。
④最初に、有識者会議の報告を導入として家族や雇用の現状に対応できない日本社会の問題点を列挙し、次に、家族への依存を前提とした日本型の政策の限界を指摘し、最後に、今後の社会の変化にいかに向き合うべきか提言している。
⑤最初に、日本が少子化社会にならざるをえなかった歴史的な経緯を有識者会議の報告とともに説明し、次に、歴代政権が取ってきた政策の問題点を指摘し、最後に、人口を増加させるための具体的な政策提言をしている。







解答
⑤負担を引き受ける女性が安心して生活できるように、年金制度や税制面での優遇策を一層進めること。

③昔の家族を取り戻せ

④最初に、有識者会議の報告を導入として家族や雇用の現状に対応できない日本社会の問題点を列挙し、次に、家族への依存を前提とした日本型の政策の限界を指摘し、最後に、今後の社会の変化にいかに向き合うべきか提言している。